何に対してパワハラかを明確にする

パワハラ事件(東京高判 平成25年2月27日)の判例

上司からの暴言

ホテルに中途で入社し、勤務1年目のAさんは、営業部に配属されましたが、入社当時から、取引先とのミスや仕事の期日を守れないことが何度もありました

上司の出張した際に、ほとんどアルコールが飲めないAさんに対して、上司は「少しくらいなら大丈夫だろ」「お前、酒飲めるんだろう。そんなに大きな体をしているんだら飲め」「俺の酒が飲めないのか」と執拗に、大声でアルコールを飲むことを強要し、A君はコップ3分の2程度飲んだ結果、気分が悪くなり、数日後に、 有給休暇を取得したり欠勤を繰り返し、その後、急性肝障害にかかり、ストレスから精神神経科にも通院する状況になりました。

また、Aさんが具合が悪いにも関わらず、上司は車の運転を強要したこともありました。

別の日には、 上司が、仕事の後に会社に戻るよう指示していましたが、Aさんは、時間が遅かったため会社に戻りませんでした。そのことを理由に、上司はAさんのメールに、「電話でないので、メールします。まだ銀座です、うらやましい。僕は1度も入学式や卒業式に出た事はありません。」また、上司は、Aさんの携帯の留守録に、「あの、本当に私、怒りました。明日、本部長の所へ、私、辞表を出しますので。本当にこういうのはありえないですよ。よろしく。」「 こんなに俺が怒っている理由わかりますか。ほんと、僕頭にきました。」などと録音をしました。

また、別の日には、Aさんが、 夏季休暇を申請していたことを知らなかった上司が、Aさんの夏季休暇の初日に、重要な案件の打ち合わせをすることを伝えていました。しかし、Aさんは出社をしなかったために、1人で案件を対応した上司は、23時ごろ、Aさんの携帯電話の留守録に、「でろよ。ちぇ。ちぇ。ぶっ殺すぞ、お前」「お前、やめていいよ。やめろ。辞表出せ、ぶっ殺すぞ、お前」などと語気を荒くして録音をしました。

会社での対応

この留守録を、労働局に相談したAさんは、アドバイスに従って、会社の本部長に相談し、上司をAさんから離すこと、上司に注意することを回答しました。

留守録事件から、数ヶ月後、Aさんは独断で会社に損害を与える仕事をしていたことが発覚し、そのため、 会社がAさんを担当業務から外し、年棒を500,000円を減額し、会社はAさんに、その理由を説明し、Aさんの了解を取り付けました。 その後も、Aさんは、たびたび大切な仕事の期限を守らず、上司が連日催促することがあった。

Aさんは、留守録事件と精神科通院の事件を理由に、1カ月間有給休暇をとり、その後も適応障害を理由いに1ヵ月半程度の自宅療養を行い、診断書を提出して、欠勤していました

しかし、それ以降、会社に対して詳しい病気の報告が一切なかったため、会社は、就業規則に則り、90日間の休職命令を出し、これに対して、Aさんは異議をだしませんでした。

その後、会社は、休職期間満了の予告通知を出した上で、自然退職の処理を行いました。

Aさんの主張

Aさんは、パワハラによる適応障害の発症、休職命令、自然退職の無効を訴えて、会社と上司に対して、損害賠償請求477万円を提訴しました。

裁判所の判断

判決では、Aさんが受けた言動に対して、パワハラによる不法行為を構成しているかを細分して判断しています。
ー 飲酒強要は、単なる迷惑行為ではなく、不法行為である
ー 体調の悪い者に、運転を強要する行為は、危険であり、上司の立場で運転を強要することは不法行為である
ー メールや留守番電話による暴言は、内容、語気、(深夜の)時間帯であることから、上司が部下に注意を与える行動であったとしても、社会的相当性を欠き、不法行為となる
ー 仕事の期限を守らないAさんに対して、上司が連日、催促や注意を行うことは、Aさんの仕事が膨大に増えたと判断できる証拠はないので、違法ではない
ー Aさんが発症した適応障害が、直接、上司のパワハラ行為によると認めることが今ないであるので、休職命令は有効
ー Aさんは、会社から休職期間の命令を受けており、また事前通告があったにも関わらず、何も異論を唱えず、復職願いや相談もなかったことから、退職が権利濫用とはいえない

どの態様がパワハラだったか

従って、Aさんが受けた上司からの飲酒強要、運転強要、メールや留守録の暴言はパワハラと認めて、会社と上司に対して、合計150万円の慰謝料の支払いを命じました。

しかし、休職命令や退職に関しては、Aさんの障害との因果関係が認められないこと、休職から退職までのプロセスは会社の就業規程に従っており、会社の権利濫用とは言えず、その請求は棄却されました。

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