バスガイド妊娠解雇事件
著名な裁判例をご紹介します。昭和44年11月18日、松江地裁益田支部での裁判例です。
旅行運送業の会社に18歳で採用され、バスガイドとして採用された女性が、採用後すぐに同じ宿舎に住んでいる男性に強姦されました。女性は、男性との関係を継続せざるをえなくなり、その後妊娠し、中絶するに至りましたが、その結果、女性の祖母が会社に対して強く抗議をしました。
事件から3ヶ月後、女性は、会社の管理者に取り囲まれて、事件の内容を話をさせられ、会社の対面を汚したと罵倒されました。会社の幹部らは、女性に対して、本来懲戒解雇にすべきだが、将来もあるので、依頼退職にしてやると強要し、女性は退職せざるをえなくなりました。
その後、女性は退職の意思表示は、懲戒解雇事由にあたると脅されて行ったもので、虚偽表示、錯誤、詐欺、脅迫にあたるもので、これは無効であるとして、雇用契約の解雇の取り消しを求めると同時に、管理者らに脅され、これを公表して名誉毀損したとして、慰謝料100万円を請求しました。
第一審判決
原告は、強姦された後も、関係を継続したために、それが妊娠につながりましたが、基本的には深刻な被害者であることには変わりありません。
原告を強姦したことに憤慨した、女性の祖母が、会社に対して強く抗議をしたことも受けて、会社は、原告に対して、退職を言い渡しました。
原告は、雇用関係を解約させられるときに、数人の前で所長から情交関係を罵倒され、18歳の未成年者でかつ未婚の原告が、その意に反して、情交関係を認めさせられました。原告は、退職した後も、この事件の発覚を恐れて、再就職できない状態が続き、その精神的打撃は、著しく人格を傷つけており、その違法性は極めて高いと判断されました。
その結果、解雇を強要した背景を不法行為と認め、慰謝料30万円を相当としました。
被害者と加害者への対応
今回のパワハラによる退職強要は、女性が上司から強姦された後も、情交関係を継続し、その結果による妊娠である点については、非難があることとしても、退職時に、管理者がその事実を罵倒し、退職を強要することは、違法性は高いと言えます。
しかし、一方、強姦した上司に対して、会社は重大な処分をおこなっておらず、この不均衡は責められるべきであるとも考えられますし、慰謝料はが30万円にとどまる判断は、現在の価値にすると、もう少し慰謝料額が向上してもよいのではないかと思われます。