パワハラの事実認定
パワハラ行為の事実認定は、 パワハラ行為を受けた側とされた側の双方で事実認定が行われます。
パワハラ行為を受けた場合は、その行為が業務指導の範囲内かどうかが争われます。
例えば、上司の行為が部下への指導監督権の濫用とみなされる場合は、不法行為となります。
会社側はパワハラを受けた側の事情例えば本人のミスやパワハラを誘発した従業員の態度等を指摘し、過失相殺を主張していくことが多いようです。
業務指導の範囲かどうか【合理的かどうか】
会社の上司には、部下を指導監督する権限がありますが、その目的や方法に応じて、その行為が権限を乱用しているとみられる場合には、不法行為となります。
したがって、パワハラ行為の認定にあたっては、その行為が、業務指導監督の範囲内であるかどうか、が争点となります。
JR東日本事件(仙台高裁秋田支部判決 平成4年12月25日)においては、 上司が部下に対して、就業規則違反を理由として、国鉄のマークが入ったベルトの取り外しを命じ、さらに就業規則の全文の書き写しと、その後の感想文の作成、書き写した就業規則の読み上げを命じる、などとした行為については、裁判所は、この行為に対して、上司が部下に対して、就業規則を学習させると言うより、むしろ、見せしめを兼ねた懲罰的目的からなされたものと推認せざるを得ず、その目的においても具体的対応においても不当なものであって、部下に故なく、肉体的、精神的苦痛を与えて、その人格権を侵害するものとして、不法行為の成立を認めました。
被害者側の要素
パワハラ行為があった場合でも、そのきっかけとなった行為、例えばミスがあった、勤務態度に問題があった、など会社から指摘されることもあります。
その場合、パワハラを受けた被害者であっても、過失があったとされ、過失相殺を主張されることもあります。
パワハラを受けた側としては、そのミスは軽微であったこと、勤務態度は他の従業員と比べても問題がなかったことを説明することによって、過失相殺はない、または低いことを主張していきます。
また、被害者側が、セクハラやパワハラによって、うつ病などの精神疾患にかかったことを主張した場合、加害者側は、もともと被害者がそういう体質だった、他のストレスがあったのだろう、と指摘されることもありますが、その場合も、被害者側は、パワハラを受けた時点から、明らかに体調不良があり、病院に通院したなどと具体的に主張していくことになります。
前田道路事件(松山地裁判決 平成20年7月1日)においては、パワハラによるうつ病発症、その後自殺した事件ですが、被害者が、上司に叱責されましたが、その原因は、被害者が不正経理が発端であること、この不正経理により、会社に与えた損害などを総合的に考慮して、加害者に対して、6割に過失相殺を行いました。
事実認定にあたって
上記のように、パワハラを認定するためには、パワハラの態様だけでなく、そこに至るまでの経緯、原因、なども総合的に考慮して判断されます。
その際、上司の指揮命令・業務上の命令が合理的かどうかは、その状況や会社の業務内容、上司との関係性に応じて一軒一軒異なります。
これを裁判所で判断してもらう手続に至るかどうかは、よく検討される必要があるでしょう。