パワハラの存在が否定された判例

職場でのパワハラの言動

職場で上司が部下に対して、人格権を侵害するような言動があった場合は、パワハラと評価されますが、裁判では、パワハラを受けた側の主張する言動を認定せず、パワハラの存在を否定した裁判例もあります。パワハラ言動が、「不法行為」を構成するのは、職務上立場が上の人が、職務上の地位や権限を逸脱したり、濫用し、社会通念に照らし客観的な見地からみて、一般的に許容し得る範囲を著しく超えるような、有形または無形の圧力を加える行為をしたと評価される場合です。

東京地判 平成26年8月13日

東京地裁で、不法行為責任が生じるようなパワハラの存在を認めることはできないとして、請求を棄却した裁判例があります。この事例は、プリンティングセンターの業務を行う会社で、デザイン業務を行う人材を募集したところ、業務内容を単純労務であると思って応募してきた人が、雇用されてましたが、彼が実際仕事をしたところ、やはりスキルに乖離があり、デザイン業務は不可能でした。会社の担当者は、彼に、必要なスキルの高さを伝えたのですが、彼は「今は難しい」と答えたところ、担当者は、「前向きではない。頑張りますと言いなさい。」「もうデザイン業務はやらなくていい」「オツムの弱い人かと思ったよ」などの発言をしました。彼は、その言動が「パワハラ発言」だとして、会社と担当者に対して、損害賠償請求訴訟を起こしました。

パワハラ発言が不法行為と言えるか

パワハラ発言が、不法行為と言えるかは、「パワハラを行った者とされた者の人間関係、 当該行為の動機、目的、時間、場所、態様などを総合的に考慮した上、企業組織もしくは職務上の指揮命令関係にある上司などが、職務を遂行する過程において、部下に対して、職務上の地位や権限を逸脱又は濫用し、社会通念に照らした上で客観的な見地から見て、通常人が許容する範囲を著しく超えるような有形、無形の圧力を加える行為をしたと評価される場合」に限られます。上記の判例では、部下が、専門職として与えられた職責を遂行することができないスキルだったことを受けての、担当者の発言であり、この発言だけをもってして、 不法行為が成立し得るものと言えるのか疑問であるとの判決であった。したがって、東京地裁は不法行為責任が生じるような会社又は担当者によるパワハラの存在を認めることはできない、として請求を棄却しました。

パワハラの詳細

また、この判決においては、パワハラを受けた者が、パワハラを受けたと主張する時期、または前後の様子などが明確ではなく、それに加えて、担当者と会社もこのような言動を取った事は無いと、完全に否定していたため、パワハラを受けた者の供述以外にその主張を裏付ける客観的な証拠がなかったことも、請求が棄却された理由ではないでしょうか。裏を返すと、このような証拠があれば、パワハラと認定されたこともありえます。

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