上司に誘われて会社帰りに食事に行きました。この上司とは、友達以上の関係にあったのですが、あいまいな状態でした。帰り間際身体に触ってきて、無理やりキスされ、その日は仲良くおさまりました。そのあと、同僚に相談したためか、噂が広まってきて、職場に居づらくなり、自主退職をしました。
会社を辞めることまでになった、この上司の行為に対して、慰謝料請求をしたいのですが、できますか?
慰謝料請求できます
上司の立場にあるひとの誘いに対して、毅然とした態度で臨むことは難しいように思います。
しかし、実際の裁判例でも慰謝料請求を認容するものがあります。その裁判例では、上司の運転する自動車内において「モーテル行こうよ。裸を見せてよ。」などと発言した上司が、腰に触れながら「いい勉強になるから入ろう。」と誘った上、人気のないところで自動車を運転して繰り返しキスを要求し、胸に手を入れようとしたところ部下が抵抗を示しました。
その際「けちだななぁ。それじゃ1万円払うから」などと反応した事実関係において、裁判所は100万円の慰謝料請求を認容し、弁護士費用として認容額の1割である10万円の支払いを命じました。
裁判例の判示では、「被告の加害行為の内容、態様、被告が職場の上司であるとの地位を利用して本件の機会を作ったこと、被告の一連の行動は、女性を単なる快楽、遊びの対象としか考えず、人格を持った人間として見ていないことの現われであることがうかがわれ、このことが原告にとってみれば日時が経過しても精神的苦痛、憤りが軽減されない原因となっている」と認定しています(Nホテル事件(静岡地判沼津支部平成2年12月20日判タ745号238頁)。
退職後の法律関係について
この裁判例は、すこし古くなってきていますので、現代で同種事例が生じた場合には、事業主側が相談に応じ、適切に対応することが義務づけられています。
また、プライバシー保護及び不利益な取り扱いの禁止が、セクハラ指針によって定められていますので、自主退職なのか会社がイニシアティブをとったうえでの退職なのかについて争いはあれ、法人側への使用者責任追及が視野に入ります。
セクハラ対応に問題がある場合、それ自体が不法行為又は債務不履行となり、法人への責任追及も可能なのです。
なお、この場合、逸失利益といって、ハラスメント行為と退職に伴う一定期間の賃金損害額の請求が認容される裁判例も多く存在しています。
さいたま地方裁判所において、判決の形で平成21年8月31日に出された判断では、実際の就労期間693日間にわたり、賃金センサス(厚生労働大臣官房政策調査部による、特定の社会事象について、ある時点で一斉に行われる大規模な「賃金構造基本統計調査」)による全年齢平均賃金の50%の利益を得ることができたはずだと認定し、326万0327円の支払いを命じています。