銀行員であった女性が、支店長から食事に誘われ、レストランで食事の後、移動したホテルのプライベートルーム内でセクハラを受けた事案がありました。
女性の直属である課長は、支店長からのセクハラ被害の相談を親身に聞いていて、問題の大きさを考慮して、自分の上司である次長に報告すべきであると考えてました。ところが、そのことを被害者に伝えたところ「そっとしておいてください、事を荒立てないでください。」と言われてしました。その結果、上司である次長に報告することをしませんでした。
その行動についてどう考えますか?ある裁判例の事例から検討してみます。
京都地裁平成13年3月22日判決
裁判例は、以下のように述べています。「原告(被害者)に必要だったのは、プライバシーや秘密が厳守されるとの安心感のもと、原告の訴えに真摯に耳を傾け、丁寧に話を聞いてくれ、これによって心が整理され、真に自分が望む解決方法を自覚できる相談相手であった。課長の対応の不適切さは、セクシャル・ハラスメント問題について特別な研修を受けたこともない課長としてはやむを得ないものであって、これは課長個人の問題ではなく、銀行(被告)全体のセクシャル・ハラスメント問題への取り組み姿勢の問題であったというべきである。」
要は、課長の行動は、不適切な行為であると評価されてしまいました。
もっとも、課長の個人的な責任として処理されたのではなく、銀行全体の取り組みの問題であると指摘はしているものの、課長が被害者からの陳情を上司に報告しない行為自体は、不適切なものと評されてしまったのです。
同じ裁判例では、「支店長からの誘いははっきり断るように」とアドバイスをした被害者の上司(=課長)は、「原告を叱責して新たなストレスの原因を作るのみ」と判示 されてしまい、親身に話を聞いていた課長としては、双方からいたばさみになってしまったということもできるのではないでしょうか。
この裁判例は少し古くなってきていますが、初動を誤ると、不信感の増長 •裁判リスクがあることを指摘することができます。
問題をこじらせないようにするには、温かみのある対応をこころがけ、守秘義務の説明をしてあげること、 適度にレビューをしてあげること、聞き流すことをせずメモをとること、声のトーンに気をつけながら相槌 をうったり体調の確認をしてあげること、過重労働に至っていないか配慮してあげることをしたうえで、要望の聞き取りや見通しを伝えてあげることが有効でしょう。